窓ふき職人に憧れて

mado_fuki
私の父は会社を経営しています。私は1人息子なので、その会社を継がなければいけない身分なのですが、実は父の会社を継ぐよりも、本当は就きたい職業があります。その職業とは、まだ私が幼稚園の頃、父の会社に連れて行ってもらい、秘書のお姉さんと遊んでもらっている時に出会いました。秘書のお姉さんと、応接室のような広いお部屋で鬼ごっこのような遊びをしていたのですが、大きな窓ガラスから、隣のビルの上階から垂れ下がっている紐のようなものを見つけたのです。その紐を上にたどって目をやると、なんとビルの窓ガラスの外側に、人間が垂れ下がっているではありませんか。

その人間は、何かせわしなく動きながら、段々私が居る階の高さまで降りてきました。それは上手に紐を操作して、自分の意思で降りてくるのです。その人が何をしているのか知りたくて、私は窓ガラスに貼りつくように見つめていたのですが、横から秘書のお姉さんが、あの人はお隣のビルの、窓ガラスの拭き掃除をしているのだと教えてくれました。そう、私が就きたい仕事。それは窓ガラスの掃除をする、窓ふき職人なのです。大きくなってから自分で調べ、その職人さんが持っていた道具はスクイジーというものだと知りました。どの窓でも、スクイジーを全く同じ動きで操作し、無駄のない仕事ぶりで窓ガラスを綺麗にしていくさまに、私はすぐに魅せられ憧れの職業になってしまいました。

小さい頃は、窓ガラスの掃除をする人になりたいと父にも話し、父も笑って「いいね」と言ってくれたのですが、まさか今でも私が窓ふき職人になりたいと思っているとは、父は思っていないでしょう。一生懸命勉強してそれなりの大学に入り、将来的には父の会社を継ぐものだと思っていると思います。でも本当は、できることなら、私は窓ガラスを掃除する、窓ふき職人になりたいです。